内容説明
全章にわたって,初学者にわかりやすい巻矢印を使った電子の動きに基づいて平易に記述されている.有機化学を学ぶうえで基本となる事柄を簡潔にまとめた半期用テキスト.有機化合物別の章立てではなく,有機反応別の構成になっているのが最大の特徴.高校で有機化学を学んでこなかった学生にも十分理解できるように配慮.丁寧な解答付きの例題は学生の理解を助ける.
【設問・章末問題解答】
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著者からのメッセージ
“丸暗記しなくても有機化学は理解できる、ということを学生諸君にわかってもらえるようにするにはどうすればよいだろうか”
これは有機化学を教える教師にとって、永遠の課題と思います。私たちも長年にわたって有機化学を教えてきましたが、学生諸君に有機化学の本当の面白さをわかって貰うために、どのように教えればよいか、随分試行錯誤をしてきました。本書はこのような試行錯誤の結果到達した一つの結論を、具現化したものです。
具体的には、三つの基本的な事項を、最初に徹底的に習得させることに主眼をおきました。
第一は、有機化学反応の起こる経路を、電子の巻矢印で間違いなく示すことができるようにすることです。初心者が犯しやすいいくつかの間違いがあるので、着実にマスターできるように懇切丁寧に述べました。
二番目は反応の起こる原動力ともいうべき、結合における電子の偏りを理解させることです。すなわち、電気陰性度と共鳴です。このことを初期の段階でしっかりと理解しておけば、ある反応がなぜそのように起こるのかがわかり、さらには化合物の構造を見ただけで、その反応を予測することさえできるようになると考えました。
三番目は酸と塩基、とくにその強度と構造の関連を学ばせることです。有機化学には、適応範囲の広い一般則が少ないですが、これは例外的で、他のさまざまな反応を理解する上で有用ですので、これをできるだけ平易に丹念に説明しました。
これらの三つの基本的な事項は、もちろん多くの教科書に書かれていることですが、いくつかの章にまたがって、分散して書かれているため、系統的に教えることが難しくなっています。本書ではこれらの事柄を最初にくくりだして、丁寧に教えるようにしたのが特色です。
このように基本事項を十分に学んだあとで、実際の反応を学ぶので、学ぶ側も、教える側もスムーズに入っていけると思います。
これに関連して、もう一つの特色は、多くの教科書が採用しているアルカンから始まる化合物別の構成ではなく、反応別になっていることです。初心者が反応の面白さに触れる前に、構造、命名法などのやや退屈な説明でつまずいてしまうことが多いからです。
加えて、本書では大切な事項を確実に理解するために、事項ごとにわかりやすい解答付きの例題と設問を設けてあります。また,本文の余白には,初学者が難解と思われる用語やワンポイント解説をもうけ,さらに“こう考えるとわかりやすい”というアドバイス的な補足も加えました。
このように,本書は大学で初めて有機化学を学ぶ学生はもとより、一通り有機化学は学んだが、まだ理解が不足していると感じる学生にも等しく適切な書物になると思います。また、高校で有機化学を履修していない学生も理解できるように配慮してあります。
目次
第2章 結合の開裂・生成と電子の動き―巻矢印の正しい使い方
第3章 電子の偏りと結合の分極―電気陰性度が引き起こす効果
第4章 電子の非局在化と共鳴効果―共鳴構造とその安定性
第5章 酸と塩基の基本的な考え方―電子の動きから理解する
第6章 有機反応の求核剤と求電子剤―電子の受け取りやすさ,与えやすさ
第7章 電子の空間的な広がりと結合―結合を軌道から考える
第8章 有機化合物の立体構造―三次元で理解する分子の構造
第9章 有機反応の基本的理解―反応の起こるしくみ
第10章 求核置換反応―電気陰性な原子が結合した炭素の反応性
第11章 脱離反応―π結合が生成する反応
第12章 求電子付加反応―π結合の切断とσ結合の生成
第13章 求核付加反応―カルボニル基がもたらす多様な反応
第14章 付加-脱離による求核置換反応―カルボニル基のもう一つの重要な反応
第15章 付加-脱離による求電子置換反応―芳香族化合物の反応性と配向性
第16章 ラジカル反応―イオンを生じない反応