第78回
山崎 昶先生が答える化学質問箱
回答者プロフィール
やまさき・あきら
1937年生まれ。東京大学理学部化学科卒業。
元日本赤十字看護大学教授。
おもな著書に「化学の常識なるほどゼミナール」「落語横丁の化学そぞろ歩き」「機密保持と化学」「ミステリーの毒を科学する」、訳書に「化学するアタマ」「先生を困らせた324の質問」「サイエンティスト ゲーム」「続 サイエンティストゲーム」など多数。
山崎 昶先生が答える化学質問箱
第78回
Q. 小学校6年生の実験で,塩酸にアルミニウムを溶かし,その溶液を蒸発させて残ったものはアルミニウムなのか,それとも違うものに変化したのかを調べる,というものがあります.理論上の化学式でいえば塩化アルミニウムが生成しているはずですが,蒸発皿に残ったものは塩酸には溶けるものの,水には溶けませんでした.ちなみに塩酸にも溶けたとはいえ,溶液を見てみるとコロイド特有のもやもやした感じがありました.この結果からすると塩化アルミニウムがさらに反応して水酸化アルミニウムが生成しているのでは?と思います.しかし,教科書にははっきりと写真付きで「残留物は水に溶けます!」と書かれています.
Q. クロロホルムの反応性として強塩基と混ぜると激しく反応し,火災や爆発の危険をもたらすとありますが,どのような反応が起こるのでしょうか? また強塩基とはどの程度のpKbの塩基なのでしょうか? エチレンジアミンやトリエチルアミン,ヒドラジンなどは問題ないのでしょうか?
Q. この前ケーキ作りの教室に参加しました.そしたら材料の中に「ケレモル」という白い粉末がありました.これどんな成分なんでしょう?
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Q.  小学校6年生の実験で,塩酸にアルミニウムを溶かし,その溶液を蒸発させて残ったものはアルミニウムなのか,それとも違うものに変化したのかを調べる,というものがあります.理論上の化学式でいえば塩化アルミニウムが生成しているはずですが,蒸発皿に残ったものは塩酸には溶けるものの,水には溶けませんでした.ちなみに塩酸にも溶けたとはいえ,溶液を見てみるとコロイド特有のもやもやした感じがありました.この結果からすると塩化アルミニウムがさらに反応して水酸化アルミニウムが生成しているのでは?と思います.しかし,教科書にははっきりと写真付きで「残留物は水に溶けます!」と書かれています.実験の仕方が悪かったのでしょうか.アドバイスをお願いいたします.  
(33歳 小学校教員)
A.  これについては,何年か前にnifty-serve の「理科の部屋」でも熱心な小学校の先生からのお問い合わせがあって,下記のアドレスにアクセスすれば何人かの大先生方からのコメントと一緒に一部始終がのせられています.
http://sci.la.coocan.jp/fchem/log/edu/334.html
http://sci.la.coocan.jp/fchem/log/edu/341.html
 一口で申しますと,これはテキストの不備としか言えません.金属アルミニウムを塩酸に溶かした溶液には,当然ながらアルミニウムのイオンと塩化物イオンが含まれていますから,濃縮すると水和した塩化アルミニウム(通常は六水和物)が結晶するわけですが,これは熱分解しやすく,普通に加熱すると塩化水素分が揮発した塩基性塩化アルミニウムとなりやすいのです(水和物の結晶をつくるには低温で減圧濃縮させる必要があります).
 ご質問のように加熱濃縮(小学校ですからアルコールランプでしょうね)しますと,どんどん塩化水素が揮発しますから,白色粉末の塩基性塩化アルミニウム(Al(OH)xCl3-x)の形になりますが,これはxが小さいうちは水に可溶ですけれども,大きくなる(塩化水素が除かれる)につれて水に溶けにくくなります(もちろん塩酸には可溶です).さらに加熱すると水和酸化物となるのですが,完全なAl2O3にするにはもっと高温で長時間加熱しなくてはなりません.ですからここでの生成物は,純粋な塩化アルミニウムでも水酸化アルミニウムでもない複雑な混合物(けれど,金属アルミニウムとは別のもの)ということになります.生成物が水に溶ける段階で加熱をやめるには経験者のノウハウみたいなものがありますが,指導用のガイドにもそこまでは(書きにくいこともあって)記してないのでしょう.
Q.  クロロホルムの反応性として強塩基と混ぜると激しく反応し,火災や爆発の危険をもたらすとありますが,どのような反応が起こるのでしょうか? また強塩基とはどの程度のpKbの塩基なのでしょうか? エチレンジアミンやトリエチルアミン,ヒドラジンなどは問題ないのでしょうか?  
(大学生)
A.  ご質問には二種類の重要な問題,すなわち,一つは安全な取扱法,もう一つは酸塩基反応での酸としての強さの問題が含まれているかと存じます.安全性については「MSDS(化学物質安全データシート)」などのデータベースをご参照になるべきですが,もともとクロロホルムは空気中でも,あるいは痕跡量の水分の存在下でも部分的に分解してゆっくりと塩化水素やホスゲンを生じますから,強アルカリが存在するとこれと中和反応がおきて,反応熱で分解が加速されることになります.時には爆発的にもなり得ます.大体,クロロホルムという名称だって,濃厚水酸化ナトリウムで処理することで加水分解の結果,蟻酸(formic acid)のナトリウム塩が得られることからつけられたぐらいですから.空気中なら全部分解すると塩化水素(アルカリが存在すれば塩化ナトリウムなど)と二酸化炭素にまでなります.
 クロロホルムの水素(プロトン)は,炭素に直接結合してはいますが,極めて弱い酸として解離し,トリクロロメタニドイオン(CClz3-)を与える事は充分に考えられます.つまり「活性プロトン」と見なすことも可能です.このイオンについてのプロトン親和力(つまり気相中での酸塩基強度に対応する)の測定結果からは,アセチリド(C2H-)やシクロペンタジエニド(C5H5-)と同じぐらいであることがわかっています.ただ,これらならば条件次第でナトリウム化合物が得られるほどの安定性を持っているわけですが,トリクロロメタニドの場合にはナトリウム塩をつくろうとしてもたちまちに分解してしまい,塩化ナトリウムを与え,あとは不安定なラジカルを生じて,凝縮相ならば爆発的に反応することになります.
 「強塩基」とは媒質・条件次第で定義が変わってきます(ご質問に例として掲げられたものは,pKbを問題にする通常の水溶液系なら典型的な弱塩基なのですが)から,問題となるかどうかはあなたさまの実験条件次第です.
Q.  この前ケーキ作りの教室に参加しました.そしたら材料の中に「ケレモル」という白い粉末がありました.これどんな成分なんでしょう? まさか有毒ではないと思うんですが……
(43歳 会社員)
A.  これは「酒石酸水素カリウム」,つまり「酒石英」の昔の呼び名です.ラテン語の「Cremor Tartari」が,いまから三百年ほど前の蘭学者たちによってカタカナ化されたもののようです.昨今ではフランス語由来の「クレーム・ド・ターター(crème de tartar)」の方が料理教室などではよく使われているようですが,中には昔風の名称を愛用される先生方もまだおいでなのですね.重曹(炭酸水素ナトリウム)と混合したものがふくらし粉(ベーキングパウダー)の成分としてよく用いられています.