第38回
山崎 昶先生が答える化学質問箱
回答者プロフィール
やまさき・あきら
1937年生まれ。東京大学理学部化学科卒業。
元日本赤十字看護大学教授。
おもな著書に「化学の常識なるほどゼミナール」「落語横丁の化学そぞろ歩き」「機密保持と化学」「ミステリーの毒を科学する」、訳書に「化学するアタマ」「先生を困らせた324の質問」「サイエンティスト ゲーム」「続 サイエンティストゲーム」など多数。
山崎 昶先生が答える化学質問箱
第38回
Q. 普通水は中性だからpHは7ですよね? でも実際精製水のpHが5.5付近の酸性になるのはなぜですか!?
Q. SCF法が収束する数学的証明を知りたいのです.どの文献を見ればよいですか.
Q. アセトンと次亜塩素酸塩(ナトリウム)を混合してみたら,発熱して,それに銅を入れたら,泡が出て溶け出しました.これはいったいどういった反応なのでしょうか.
「化学の疑問」募集中 !!

このコーナーではみなさまから化学にまつわる質問を募集しています.
山崎昶先生に聞いてみたい質問をメールにてお寄せ下さい.
eigyoukagakudojin.co.jp
スパムメール防止のため@は全角で表示しております.送信の際に半角に修正していただけますようお願い申し上げます.

件名は必ず「化学質問箱」 としていただき,下記必要事項をお知らせください.
お名前,住所,TEL,年齢,ご職業,ご質問

*他サイトとの二重投稿はご遠慮ください.判明した場合は回答いたしません.
*学校の宿題は,まずは自分で考えましょう.

Q.  普通水は中性だからpHは7ですよね? でも実際精製水のpHが5.5付近の酸性になるのはなぜですか!? 教えてください.  
(18歳 大学生)
A.  これは大学生からの質問なのですが,もし指導される教官がコワイ先生だとカミナリが落ちることは確実だと存じます.受験産業のつくったパターン化した問題を解くことばかりに熟練してきたので思考能力が低下しているのかもしれません.
 まず「普通水」とはなんのことでしょう? 「普通の水」だったらpHが7になることはあり得ません.「純水」のpHは7になりますが,これは窒素などを通じて溶存している気体を追い出し,汚染を出来る限り完全に除いた状態の「水」の場合です.
 薬局などで売っている「精製水」(コンタクトレンズを浸したり,注射液を希釈したりするもの)は,以前ならば蒸留水だけでしたが,現在は,このほかに脱イオン水や逆浸透水なども含まれています.これらは,どの方法で調製するにせよ当然ながら空気中で処理しますから,水に可溶な気体はとけ込んできます.いまのようにpHを下げる主原因は何といっても二酸化炭素でしょう.ところによっては二酸化硫黄やノックス(NOX)の可能性もありますが.
 イオン交換水は,注意してつくると,製造直後のpHはほぼ7になります.でも間もなくpHはどんどん低下してきます.あなたの吐く息もこの原因の一つなのです.
Q.  SCF法が収束する数学的証明を知りたいのです.どの文献を見ればよいですか.
(51歳)
A.  SCF法(self-consistent field, すなわち自己無撞着場法)はハートリー近似の波動関数を使って,全エネルギーが最小となる条件を変分原理で求める計算方法ですが,「収束する数学的証明」が存在するなどということは寡聞にして伺ったことがございません.その昔の現在よりもはるかに能力の劣るコンピュータしか使えなかった時分には,「収束しない」という結果が得られることが少なくありませんでした.現在では処理能力が大幅に改善されましたけれども,やはり解がいくつかの値の間を振動してしまい,どれか一つにはどうしても収束しない場合は結構たくさんあるようです.
 でも「収束する数学的証明」をお求めならば,これはSCF法とは問題が本来からしてまったく別で,「変分法」についての数学のテキストをごらんになるしかないと存じます.分子軌道計算のソフトウェアを販売している企業のホームページなどを見ても,「収束しない場合どうしたらよいだろうか?」という問い合わせがたくさんあるようです.だとしますと,量子化学のテキストではたぶんご満足の行くような解答は得られないだろうと存じます.
Q.  アセトンと次亜塩素酸塩(ナトリウム)を混合してみたら,発熱して,それに銅を入れたら,泡が出て溶け出しました.これはいったいどういった反応なのでしょうか.あと,ある程度経つと,黒いものが出てたので,これは炭素だと思います.
(16歳 高校生)
A.  ずいぶん危ない実験をよくおやりになったことと存じます.事故にならなくてハッピーだったと申し上げるしかありません.
 お問い合わせの文からすると,次亜塩素酸ナトリウムはおそらくは濃厚水溶液(キッチンハイターなど)を使われたと思うのですが,強アルカリ性のメディアでアセトンと反応すれば,ハロホルム反応でクロロホルムができます.川端 潤先生の『
ビギナーズ有機化学』(化学同人)でもご覧ください.温度が上がるならもっと他の副反応も進んで爆発的に進行する可能性だってあります.それに高温になればアセトンもクロロホルムも激しく揮発しますから,よく爆発を起こさずにすんだものです.くれぐれもこんな実験はお一人ではなさらず,指導の先生の目の届くところでやってください.それにどちらも蒸気は体に有害であります.通気性のよいドラフトチェンバーの中でする必要があります.
 金属銅は水には溶けませんが,酸化能力のある試薬とは反応します.今の場合なら次亜塩素酸イオンと反応してCu(II)ができるわけですが,強アルカリ性だとすぐに水酸化銅になってしまいます.これは温度を上げると簡単に水がとれて黒色の酸化銅(II)に変化します.今の場合も反応熱で系の温度が上がるわけですから,こうなりやすいことはすぐおわかりでしょう.
 次亜塩素酸塩は大抵の有機物を酸化して二酸化炭素と水にしてしまうので,お考えのような遊離の炭素がこんなところで出来ることはまずありません(もしそうだったら,台所の汚れ落しなどに使えるはずがなくて,そこら中炭素の微粒子で真っ黒けとなるはずなのです).
 数年ほど以前に,トイレの清掃用の塩酸と漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム水溶液)を混ぜて,死亡事故が発生したことがありましたが,同じように手当たり次第に何でも混ぜるというのは一千年ぐらい昔の煉丹術時代と同じで,サイエンスにはなりません(もちろん化学にもならないのです).
 命あっての物種,もっと自分の体は大事にしてください.