第21回
山崎 昶先生が答える化学質問箱
回答者プロフィール
やまさき・あきら
1937年生まれ。東京大学理学部化学科卒業。
元日本赤十字看護大学教授。
おもな著書に「化学の常識なるほどゼミナール」「落語横丁の化学そぞろ歩き」「機密保持と化学」「ミステリーの毒を科学する」、訳書に「化学するアタマ」「先生を困らせた324の質問」「サイエンティスト ゲーム」「続 サイエンティストゲーム」など多数。
山崎 昶先生が答える化学質問箱
第21回
Q. 金属元素は金属結合半径,18族元素はファンデルワールス半径,その他の元素は共有結合半径として典型元素の原子半径を見るとき,18族元素以外の同一周期の元素では,族が大きくなるほど原子半径は小さくなるわけですが,なぜ18族元素の原子半径は大きくなるのでしょうか.
Q. 銀の感光作用について教えてください!!
Q. 地球温暖化問題でよくマスコミに出てくる「フロン」って、英語ではないそうですね。どこの言葉ですか?
Q.  金属元素は金属結合半径,18族元素はファンデルワールス半径,その他の元素は共有結合半径として典型元素の原子半径を見るとき,18族元素以外の同一周期の元素では,族が大きくなるほど原子半径は小さくなるわけですが,なぜ18族元素の原子半径は大きくなるのでしょうか.
(19歳 学生)
A.  その昔のロタール・マイヤーが「原子容」曲線(当然ながら半径の三乗に比例します)を描いて、メンデレエフと独立に周期律を導き出したのと同じような着想で比較をされたのだろうと存じます。ですが百数十年の昔と違って、現代では原子の存在状態次第で、その半径にはかなり大きな違いが現れることがわかっています。ですからお問い合わせのような現象が生じるのは、根本的には「希ガス元素」の半径としてファンデルワールス半径を使い、ほかのところでは別の半径をお使いになっていることが原因なのです。
 出所が違う数値を並べて、全体としての大小の傾向を論じるというのは、山本 弘氏の主催される「と学会」のサカナにされそうな連中がよくおやりになることなのですが、まさか質問された方はそんなおつもりではないだろうと存じます。たまたまお手元にあったデータということなのでしょう。でも、このような手法はキケンですから、おやりにならないように。
 このような「原子半径」の意味のある比較のためには、共有結合半径のみ、あるいはファンデルワールス半径のみというように、同じ分類のものだけで比較しないと、意味のある結論は得られません。共有結合半径は当然ながらキセノンやラドン以外の希ガスについてのデータはありませんから、お求めのような比較をするためには、ファンデルワールス半径のデータをそろえて比較しなくては無意味です。
 ご質問のような比較に便利なように、ネオンからアルゴンまでのところのそれぞれの原子についてのファンデルワールス半径の値を、J. Emsley の“The Elements”(第三版)(1998)から引用してみましょう。原子番号の増加順に並べると、次のようになっています(単位はピコメートルです。この本にはマグネシウムのところだけデータが欠けています)。原子の半径が最大となるのはやはりアルカリ金属元素であることがおわかりいただけるでしょうか。
  
 
 
Ne
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
Ar
 
160
231
・・・
205
200
190
185
181
191

 原子やイオンのサイズ(もっともこれは電子雲の広がりなので、文字通り「雲をつかむ」ようなものですが)を左右しているのは、「有効核荷電」と最外殻電子の数なのです。このあたりをたくみに概括してあるのは、いささか古くはなりましたが、アリゾナ州立大学のR.J.Sanderson教授(新しい電気陰性度の概念を提唱するなど、きわめてユニークな見地から元素全般を概観した本を多数刊行されています)の執筆された“Inorganic Chemistry”(広川書店から「サンダーソン無機化学(上・下)」として訳本がもう30年ほど前に刊行されましたが、現在では絶版になっています。でも大学なら図書館にあるでしょう)に、同じ条件での比較が周期表のワクの中に図示されていて、詳しい考察も載せられていますので、これをご参照になるのが一番わかりやすいだろうと思います。

Q.  銀の感光作用について教えてください!! 実験中に銀の溶液の色が、薄い青紫色に変わりました。これは、光を浴びて色が変化したと考えたのですが、感光作用についてよく知りません……そもそも、何で銀の溶液は、光が当たると色が変化するんですか?教えてください.
(15歳 高専生)
A.  このご質問は高専の生徒さんからのものなので、どのぐらいのレヴェルでのご説明がふさわしいのかちょっと判断致しかねるのですが、「銀の溶液の色が変化した」というのはおそらく硝酸銀の滴定液のことなのでしょう。でも、ふつうなら硝酸銀溶液がそんなに迅速に着色することはありませんから、かなり紫外線の光量の大きな条件のようにも思えます。何かほかが原因もあるのかもしれませんね。
 「感光作用」は銀塩に限らず、実にいろいろな化合物においてみられます。根本的には光のエネルギーが化学反応を誘起することにはじまるわけで、感光性の樹脂(プラスチック)もありますし、いろいろな試薬などが褐色の容器に蓄えられているのも、光による分解(これも一種の感光作用にほかなりません)を努めて避けるためです。その昔の製図では、「青写真」をつくるのに、鉄錯体の感光作用を利用していました(高専でしたらたぶんまだご存じの老先生がおいででしょうから、一度伺ってみることをおすすめします)。日光浴だって、皮膚でエルゴステロールに感光作用が起きて、ビタミンDができるということで奨励されました。このごろは癌の原因だとも言われて、いささか旗色が悪いですけれど。
 銀塩にはAg(I)のイオンが含まれているのですが、これは波長の短い可視光線や紫外線、X線など、エネルギーの高い電磁波を浴びると、どこかから電子をもらって容易に還元を受け、Ag(0)、つまり原子状の銀をつくります。一個だけなら目に見えるほどの着色とはなりません(これは写真のほうでいわゆる「潜像」と呼ばれる段階で、現像処理はこの周りにたくさんの銀原子をつくり出すことに当たります)が、多数集まるとコロイド状の銀粒子に特有の色調を示すようになります。これがご覧になった青紫色の正体ですが、もっと大量にできると真っ黒になってしまいます。ですからその昔は、「銀滴定は蛍光燈照明の下なんかでやるものではない!」とコワイ先生方に厳しく言われたものでした。もちろん野外など太陽光線のあたるところでは御法度で、水質分析や海水の鹹度(塩素含有量)を求めるときなど、直接に太陽光が当たらないように影をつくって行います。これを逆用したのが「色の変わるサングラス」で、つまり紫外線で銀原子が遊離し、その結果着色して紫外光を遮ってくれるのを利用したものです。
 このあたりについてのもっと詳しく、かつわかりやすい情報を求めるにあたっては、化学の書籍類よりも写真関係の専門書のほうがやさしく(科学の知識が不足している人でもわかるように)書いてあると思います。光化学の専門の書物は、最近刊行されているものは内容がどんどん高度になる傾向があり、ご質問のような疑念に答えられそうもないのです。もっとも、銀以外の感光材料については、プラスチックについての比較的最近の話題を集めたハンドブック類をご覧になるしかないでしょう。どちらにせよこれらについてのインターネットでの記事類は、ベンチャー起業家など玄人向けのものが大部分なので、「教えてください!!」というレヴェルの方々向きにはあまり適当ではありません。
Q.  地球温暖化問題でよくマスコミに出てくる「フロン」って、英語ではないそうですね。どこの言葉ですか?
(38歳 会社員)
A.  冷媒や溶剤などに使うクロロフルオロカーボン類(CFC)はずっと「フレオン(Freon)」と呼ばれてきました。ですが、実はこれはデュポン社の商品名なので、日本で規制のための法律をつくるときに、やはり特定企業の商品名ではまずいということで「フロン」という名称に定められました。ですから純然たる日本語(法律用語)ということになります。横文字になっているお役所のホームページ類を見ても、「flon」だったり「fron」だったりして統一されていません。さすがにローマ字化した「furon」や「huron」はありませんでしたが。
 臭素などのほかのハロゲン置換体を示す一般名は「ハロン」といいますが、これは英語でも同じで「Halon」と記しています。大型コンピュータのある部屋の消火設備のところなどに「ハロン系消火器」などと記してあるのをご覧になった方もおありでしょう。これからすると「フロン」でもおかしくないはずなのですが、きちんとした横文字の文書や記事類はフレオンのままかCFCのどちらかを採用しています。