第107回
山崎 昶先生が答える化学質問箱
回答者プロフィール
やまさき・あきら
1937年生まれ.東京大学理学部化学科卒業.
元日本赤十字看護大学教授.
おもな著書に「化学の常識なるほどゼミナール」「落語横丁の化学そぞろ歩き」「機密保持と化学」「ミステリーの毒を科学する」,訳書に「化学するアタマ」「先生を困らせた324の質問」「サイエンティスト ゲーム」「続 サイエンティストゲーム」など多数.
山崎 昶先生が答える化学質問箱
第107回 (2012/1/24更新)rss
Q. デュポン社がナイロンを市場に出した(1935年)とき,「クモの糸より細く,鉄線より強い」という有名な宣伝文句で一世を風靡したという話はたびたび聞かされたのですが,本当にクモの糸より細いのに鉄線より丈夫だったのでしょうか?
Q. 穀物や液体を量るための枡(ます)はみんな木でつくられていますよね.でも老人に聞いたら,「その昔は和紙でつくった枡があったんだよ」というんです.どんな用途に使ったんでしょう?
Q. この頃よく目にする「セラミド」ってどんな化合物なんですか?
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Q.  デュポン社がナイロンを市場に出した(1935年)とき,「クモの糸より細く,鉄線より強い」という有名な宣伝文句で一世を風靡したという話はたびたび聞かされたのですが,本当にクモの糸より細いのに鉄線より丈夫だったのでしょうか?
A.

 どうもこれは当時にしてもかなりの誇大広告だったのではないかと思います.もっともクモの糸には種類によってずいぶん違った性質のものがあるので,必ずしも虚偽だと断言は出来ないのですが,最近のデータを調べてみると,典型的なクモの糸の太さは0.05〜0.06デニール(普通のカイコの吐く生糸だと2〜3デニール),ナイロンなどの化学繊維は,当時ならもっと太くて数十デニールほどでした(デニールは長さ9000メートルの繊維の重量〔グラム数〕ですから,数字が大きいほど太いことになります).ファインデニールなどと呼ばれる,ほんとうにクモの糸よりも細い化学繊維(0.00xデニールぐらいのもの)がわが国でつくられるようになって,レンズや眼鏡用のワイパークロス(東レのトレシー®はポリアミドではなくてポリエステル繊維ですが)などでわれわれの目にも日常的に触れるようになったのは,それほど古いことではありません.クモの糸の引っ張り強度もさまざまで,弾力に富む例では同じ太さの細い鉄線に比べるとその何倍も強靱なものがあり,かなり大きな昆虫や小動物を捕えられるのだそうです.やはり自然界にはまだまだ不思議が満ちているといえましょうか.

Q.  穀物や液体を量るための枡(ます)はみんな木でつくられていますよね.でも老人に聞いたら,「その昔は和紙でつくった枡があったんだよ」というんです.どんな用途に使ったんでしょう?
A.  和紙はたしかに丈夫ではありますが,これで容器をつくっても,内容物が重ければ底が抜けてしまいます.この紙製の枡は,明治時代になってあちこちに紡績業が勃興し,各地の養蚕農家から繭を買い集める「繭商人」が活躍するようになったとき,携帯可能な計量器として考案されて,かなり広く利用されたのだそうです,内容はほぼ一斗強(20リットル弱)のものが普通でした.何しろ繭は軽いので.こんな大きな枡で量る(繭の場合には,すり切りではなくて山盛りにすることになっていたそうです)に入れても底が抜けることはまずありません.当時の紡績業の中心地でもあった長野県の岡谷蚕業博物館のホームページ「岡谷インターネット美術館(www.okaya-museum.jp/exhibit/details/26.html)」にアクセスされれば実物の画像が見られます.なお現在でも小さい紙枡は寺社などの節分の豆まき用に結構使われているようです.
Q.  この頃よく目にする「セラミド」ってどんな化合物なんですか? ニューセラミックスの一種だろうと言ったら笑われてしまいました.セリンのアミドでもないみたいなんですが.
A.  「セラミド(seramide)」はスフィンゴシン(2-アミノ-4-オクタデセン-1,3-ジオール)のアミノ基が長鎖脂肪酸とアミドを形成したもので,いわゆる「スフィンゴ脂質」の中に含まれます.生体機能は多岐にわたるようですが,細胞シグナル伝達物質として,細胞の分化,増殖,さらにはアポトーシスなどに重要な働きをもっているようです.なおこれの生合成が妨げられると「アトピー性皮膚炎」となるともいわれています.
 このごろは化粧品に配合されているものが増えてきましたが,皮膚の角質層で細胞と細胞の間を埋めている主要成分でもあるので,保湿機能が活用されているのだということです.