アルカン>アルカンの命名法

 アルカンの命名法は有機化合物全体の命名法の基礎となる.有機化合物の名称は,人間生活になじみの深いものを中心にその起源や特性に由来して,主にラテン語や学名をもとに付けられてきた.たとえば,酢酸(acetic acid)は食酢(ラテン語 acetum)から,酒石酸はぶどう酒の石(アカ,ラテン語 tartarus)から命名された.ときには,発見者の思い入れで命名された場合もある.ところが有機化合物の数が膨大になってくるとそのような慣用名だけでは手に負えなくなってきて,命名の約束事が必要となった.現在ではIUPAC(国際純正・応用化学連合)が,化合物を整理しながら体系的な命名の規則を作り上げている.

 そこでは,なるべく簡単で一意的に間違いなく化合物の構造を表す名称を定めることを目的として,系統名が組み立てられている. IUPAC 規則では,多くの報告で統一的に使われている比較的簡単な基本的化合物の古くからの慣用名の使用を認めており,命名法に幅をもたせている.情報を正確に伝え混乱を避けるには,この規則にのっとって有機化合物を命名するのが好ましく,世界各国の化学関係学会でも系統名の使用を勧めている.それでも現実には使用しない方がよい古くからの慣用名や,特定の分野や業界だけで使用される名称に出くわすことが多々ある.また,明らかに誤った用法で命名されていることもあるので注意が必要である.

 直鎖アルカン(normal alkane,normaln- と略記する)は表に示すように,炭素数 4 までのものは以前からの慣用名を系統名として使用し,炭素数 5 以上のものは数詞(数詞接頭辞)に語尾 アン(-ane)を付けて命名する.アルカンから水素原子を 1 個除いた原子団をアルキル基と呼び,これはアルカンの語尾 アン を イル(-yl)に換えて表す.

炭素数数詞直鎖アルカンアルキル基
1モノ(mono)CH4メタン(methane)CH3-メチル(methyl)
2ジ(di)CH3CH3エタン(ethane)CH3CH2-エチル(ethyl)
3トリ(tri)CH3CH2CH3プロパン(propane)CH3CH2CH2-プロピル(propyl)
4テトラ(tetra)CH3(CH2)2CH3ブタン(butane)CH3(CH2)2CH2-ブチル(butyl)
5ペンタ(penta)CH3(CH2)3CH3ペンタン(pentane)CH3(CH2)3CH2-ペンチル(pentyl)
6ヘキサ(hexa)CH3(CH2)4CH3ヘキサン(hexane)CH3(CH2)4CH2-ヘキシル(hexyl)
7ヘプタ(hepta)CH3(CH2)5CH3ヘプタン(heptane)CH3(CH2)5CH2-ヘプチル(heptyl)
8オクタ(octa)CH3(CH2)6CH3オクタン(octane)CH3(CH2)6CH2-オクチル(octyl)
9ノナ(nona)CH3(CH2)7CH3ノナン(nonane)CH3(CH2)7CH2-ノニル(nonyl)
10デカ(deca)CH3(CH2)8CH3デカン(decane)CH3(CH2)8CH2-デシル(decyl)
20イコサ(icosa)CH3(CH2)18CH3イコサン(icosane)CH3(CH2)18CH2-イコシル(icosyl)

 環式アルカン(cycloalkane)はアルカンの名称の前にシクロ(cyclo)を付けて命名する(例:シクロヘキサン).また,枝分かれしたアルカンは直鎖のものの誘導体として命名する.そのとき,置換基の位置番号ができるだけ小さくなるように位置番号を付ける規則がある(参照:[用語解説>優先順位]).命名の手順を下にまとめる.

  1. 最も長い直鎖アルカンを母体名とする.
  2. 両端から位置番号を付けていって,置換基の位置番号を同じでなくなるまで比べ,小さい方を与える付け方を選ぶ.
  3. 側鎖置換基をその位置番号とその数を示す数詞とともに接頭語として加える.
  4. 置換基(数詞は除く)のアルファベット順に接頭語を並べる.

 下のスキームに示す命名例が規則にのっとっていることを【ボタン】を使って確かめよう.「2,4-ジメチルヘキサン」を逆から番号付けして「3,5-ジメチルヘキサン」としてはいけない.「4-エチル-2-メチルヘプタン」の「エチル」はアルファベット順で前に置かれる.環式アルカンの場合も,置換基の位置番号ができるだけ小さくなるように位置番号を付ける.「1,2,4-トリメチルシクロヘキサン」の場合,これ以外の番号付けでは置換基の位置番号が大きくなってしまうことを確かめよう.

 日本語でも英語でも名称を組み立てるとき,数字と数字はカンマ , で,数字と文字はハイフン - で区切られ,文字と文字の間は直結されスペースも入れないことに注意しよう.たとえば,「2,4-ジメチル-ヘキサン」には無用の「ハイフン」があって誤りである.上のスキームにあるイソプロピル基,イソブチル基,s-ブチル基(セカンダリー),t-ブチル基(ターシャリー)という分岐鎖アルキル基名はよく使用されるので覚えておこう(ボタン【分岐鎖アルキル基名】).これら以外のアルキル基も[付録>基本的な基名]で紹介している.

 ここで説明した有機化合物の日本語の命名規則は,あくまでも文書に書くためのもので,話すためのものではないことに注意しよう(参照:[用語説明>字訳基準]).ドイツ語の発音に近い字訳が規準となっているが,将来,英語の発音が必要となるだろう.すると,「alkane」はアルカンよりもアルケンと聞こえるし,「alkene」はアルケンよりもアルキンに近い.また,「alkyne」はアルキンではなくアルカインである.


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